古今和歌集の巻十一巻「恋一」の和歌一覧まとめ。
巻十一巻|恋一
469 | 郭公なくやさ月のあやめくさあやめもしらぬこひもするかな |
470 | おとにのみきくの白露よるはおきてひるは思ひにあへすけぬへし |
471 | 吉野河いは浪たかく行く水のはやくそ人を思ひそめてし |
472 | 白浪のあとなき方に行く舟も風そたよりのしるへなりける |
473 | おとは山おとにききつつ相坂の関のこなたに年をふるかな |
474 | 立帰りあはれとそ思ふよそにても人に心をおきつ白浪 |
475 | 世中はかくこそ有りけれ吹く風のめに見ぬ人もこひしかりけり |
476 | 見すもあらす見もせぬ人のこひしくはあやなくけふやなかめくらさむ |
477 | しるしらぬなにかあやなくわきていはむ思ひのみこそしるへなりけれ |
478 | かすかののゆきまをわけておひいてくる草のはつかに見えしきみはも |
479 | 山さくら霞のまよりほのかにも見てし人こそこひしかりけれ |
480 | たよりにもあらぬおもひのあやしきは心を人につくるなりけり |
481 | はつかりのはつかにこゑをききしより中そらにのみ物を思ふかな |
482 | 逢ふ事はくもゐはるかになる神のおとにききつつこひ渡るかな |
483 | かたいとをこなたかなたによりかけてあはすはなにをたまのをにせむ |
484 | 夕くれは雲のはたてに物そ思ふあまつそらなる人をこふとて |
485 | かりこもの思ひみたれて我こふといもしるらめや人しつけすは |
486 | つれもなき人をやねたくしらつゆのおくとはなけきぬとはしのはむ |
487 | ちはやふるかもの社のゆふたすきひと日も君をかけぬ日はなし |
488 | わかこひはむなしきそらにみちぬらし思ひやれともゆく方もなし |
489 | するかなるたこの浦浪たたぬひはあれとも君をこひぬ日はなし |
490 | ゆふつく夜さすやをかへの松のはのいつともわかぬこひもするかな |
491 | 葦引の山した水のこかくれてたきつ心をせきそかねつる |
492 | 吉野河いはきりとほし行く水のおとにはたてしこひはしぬとも |
493 | たきつせのなかにもよとはありてふをなとわかこひのふちせともなき |
494 | 山高みした行く水のしたにのみ流れてこひむこひはしぬとも |
495 | 思ひいつるときはの山のいはつつしいはねはこそあれこひしきものを |
496 | 人しれすおもへはくるし紅のすゑつむ花のいろにいてなむ |
497 | 秋の野のをはなにましりさく花のいろにやこひむあふよしをなみ |
498 | わかそのの梅のほつえに鶯のねになきぬへきこひもするかな |
499 | あしひきの山郭公わかことや君にこひつついねかてにする |
500 | 夏なれはやとにふすふるかやり火のいつまてわか身したもえをせむ |
501 | 恋せしとみたらし河にせしみそき神はうけすそなりにけらしも |
502 | あはれてふ事たになくはなにをかは恋のみたれのつかねをにせむ |
503 | おもふには忍ふる事そまけにける色にはいてしとおもひしものを |
504 | わかこひを人しるらめや敷妙の枕のみこそしらはしるらめ |
505 | あさちふのをののしの原しのふとも人しるらめやいふ人なしに |
506 | 人しれぬ思ひやなそとあしかきのまちかけれともあふよしのなき |
507 | 思ふともこふともあはむ物なれやゆふてもたゆくとくるしたひも |
508 | いて我を人なとかめそおほ舟のゆたのたゆたに物思ふころそ |
509 | 伊勢の海につりするあまのうけなれや心ひとつを定めかねつる |
510 | いせのうみのあまのつりなは打ちはへてくるしとのみや思ひ渡らむ |
511 | 涙河何みなかみを尋ねけむ物思ふ時のわか身なりけり |
512 | たねしあれはいはにも松はおひにけり恋をしこひはあはさらめやは |
513 | あさなあさな立つ河霧のそらにのみうきて思ひのある世なりけり |
514 | わすらるる時しなけれはあしたつの思ひみたれてねをのみそなく |
515 | 唐衣ひもゆふくれになる時は返す返すそ人はこひしき |
516 | よひよひに枕さためむ方もなしいかにねし夜か夢に見えけむ |
517 | 恋しきに命をかふる物ならはしにはやすくそあるへかりける |
518 | 人の身もならはしものをあはすしていさ心みむこひやしぬると |
519 | 忍ふれは苦しきものを人しれす思ふてふ事誰にかたらむ |
520 | こむ世にもはや成りななむ目の前につれなき人を昔とおもはむ |
521 | つれもなき人をこふとて山ひこのこたへするまてなけきつるかな |
522 | ゆく水にかすかくよりもはかなきはおもはぬ人を思ふなりけり |
523 | 人を思ふ心は我にあらねはや身の迷ふたにしられさるらむ |
524 | 思ひやるさかひはるかになりやするまとふ夢ちにあふ人のなき |
525 | 夢の内にあひ見む事をたのみつつくらせるよひはねむ方もなし |
526 | こひしねとするわさならしむはたまのよるはすからに夢に見えつつ |
527 | 涙河枕なかるるうきねには夢もさたかに見えすそありける |
528 | 恋すれはわか身は影と成りにけりさりとて人にそはぬものゆゑ |
529 | 篝火にあらぬわか身のなそもかく涙の河にうきてもゆらむ |
530 | かかり火の影となる身のわひしきは流れてしたにもゆるなりけり |
531 | はやきせに見るめおひせはわか袖の涙の河にうゑましものを |
532 | おきへにもよらぬたまもの浪のうへにみたれてのみやこひ渡りなむ |
533 | あしかものさわく入江の白浪のしらすや人をかくこひむとは |
534 | 人しれぬ思ひをつねにするかなるふしの山こそわか身なりけれ |
535 | とふとりのこゑもきこえぬ奥山のふかき心を人はしらなむ |
536 | 相坂のゆふつけとりもわかことく人やこひしきねのみなくらむ |
537 | 相坂の関になかるるいはし水いはて心に思ひこそすれ |
538 | うき草のうへはしけれるふちなれや深き心をしる人のなき |
539 | 打ちわひてよははむ声に山ひこのこたへぬ山はあらしとそ思ふ |
540 | 心かへする物にもかかたこひはくるしき物と人にしらせむ |
541 | よそにしてこふれはくるしいれひものおなし心にいさむすひてむ |
542 | 春たてはきゆる氷ののこりなく君か心は我にとけなむ |
543 | あけたては蝉のをりはへなきくらしよるはほたるのもえこそわたれ |
544 | 夏虫の身をいたつらになすこともひとつ思ひによりてなりけり |
545 | ゆふされはいととひかたきわかそてに秋のつゆさへおきそはりつつ |
546 | いつとてもこひしからすはあらねとも秋のゆふへはあやしかりけり |
547 | 秋の田のほにこそ人をこひさらめなとか心に忘れしもせむ |
548 | あきのたのほのうへをてらすいなつまのひかりのまにも我やわするる |
549 | 人めもる我かはあやな花すすきなとかほにいててこひすしもあらむ |
550 | あは雪のたまれはかてにくたけつつわか物思ひのしけきころかな |
551 | 奥山の管のねしのきふる雪のけぬとかいはむこひのしけきに |